第1日目 7月14日(火)



9時
竹芝桟橋着。
腰痛が酷く、やっとの思いでここまでたどり着いた。

今回の渡航者はかなり多いようにみえる。
当初は設計チーム3人で乗り込む予定が、結局前回と同じ私一人となる。
分担できるはずの荷物が不可となり、加えて2物件分の荷物となり、
キャリーカートの悲鳴は私の腰と共鳴しているように感じる。

昨日誕生日だった37歳の情けない門出である。



9時15分
受付終了し、ベンチに座る。
若い男性が私に歩み寄り、パンフレットを渡す。
どうやらウミガメの産卵時期らしく、ルールを厳守するよう記されていた。



10時
出航。

指定席であるのと3回目の渡航であるので、少々調子に乗り、急がず最後尾で乗船。
自分の席に着くと誰かが間違えて荷物を置いている。
腰痛の為、甲板には出ずに静かに横になろうと考えていたのに、いきなり出鼻をクジカレタ。
早く戻って来いと思うのだが、荷物が邪魔で自分の居場所を失い、

船内をウロウロし、仕事を始める準備をする。



10時半
それにしても観光客と思われる人間が多い。
若僧のエネルギッシュな笑い声にイライラさせられる。



10時40分
私のプライベート空間を邪魔される。
酔っ払いの乱入。
仕事をしていた私の周りを3人で囲み、「一緒に酒を飲むぞ」と缶ビールを渡される。
私の過去から現在の会社の様子が酒のツマミになる。



11時半
一度席に戻る。

私の席に中年のオッサンが寝ており、シメシメと叩き起こす。
相手が否を認めたので笑顔でどいてもらう。
宴の席に戻ると眠そうな顔をして待たれており、12時半をもって宴は終了。
急いで会社に連絡するも昼休みということもあり、不通となる。



13時
ソファにて足を伸ばしながらメールチェック。



13時半
観光客の騒ぎ声が私の仕事を邪魔する。
腰痛だというのに場所を移動せざるを得ない騒ぎよう。
一周して祈るように先ほどまでいた場所を覗くと、DSゲームが最高潮に盛り上がっている。
肩を落とし、右足を引きずりながらベッドに向かい、眠くもないのに横になる。



14時
電波が圏外と圏内を行き来する。
今回の渡航は幸いほとんど船が揺れない。
揺れないとなると、揺れて欲しいと思うのが性格の悪さで、どんどん揺れて、
ひっくり返るくらい揺れて、あの若者たちが船底へ戻ってくれと・・・。



17時
どうやら少し寝てしまった。
今まで2回の渡航とはまったく異なる穏やかな波を嬉しく思う。

今日は人々が寝静まってから活動しようと思う。
夕焼けはまぶしく、今夜は満天の星空を演出してくれるのであろう。



20時
横になっていたが耐えられず、人々の集うデッキへ移動。
外国人がいると遠慮する風習があるのか、ドイツ語を話すカップルの隣が空いていた。


この場に一言記しておきたいと思う。

「気づいている方も多いかと思うが、私は現在、自分の作品を創れる場を探し求めている。
これを実現する為に、妥協する気はまったくない。

頭の中に建てたい建築像があり、それを実現できるのは、都会ではないと感じている。
都会だけではなく、建築基準法が支配する領域では不可能なのかもしれないと・・・。
上記理由により、国外で活動することも考えたが、それを決定させるのは「日本国内、
どこにもこの作品を築くことはできない」と自分なりに強く納得してからと考えている。
・・・ということで、父島が現在のところ第一候補である。
但し、施主を口説き落とし嘘も方便で建てさせてもらうというような事はしたくない。
であるから、数十年後に父島に作品があるかもしれないし、
第二第三の候補地を探すかもしれない。父島とのコミュニケーションは始まったばかり。
2件目の仕事を頂戴して今回の渡航であるが、
建築家として島だけでなく島民が私を受け入れてくれるか、
私の創りたい作品を受け入れてくれるか・・・。

現在の仕事とは、意匠的にまたは私の作品性などには
ほとんど関係のない領域であるが、それを恥じてはいない。
以前からコラムに記 しているが、島民から感謝される仕事をして、
建築家として信頼を得る事は、一作品を創るプロセスの中で最重要事項である。
初対面の私よりも私の性格や生き方、酒の飲み方などを知った上で、
数年後に私の提案する作品を建てさせたいと考えてくれる人がいるか問いたい。
私という人間を知った上で、私の提案する建築を建てさせてくれる人が現れた時、
私は人生をすべてかけても良いと思うほどの喜びに満たされることであろう。
この作品を実現できるまでは生かさせていただきたい。」



21時15分
こんな真面目な事を考えているのに、通りすがりの酔っ払い2人に声をかけられる。
赤い顔をして、「仕事しているのか」だの「このパソコンはどうの」と
私がTシャツ短パン姿だからといって遠慮なく話しかけすぎだろうと・・・
思ったらまた来ヤガッタ。
コイツラあとでゲーゲーするぞと忠告してやりたい。



22時
そろそろ星空を見に行こうかと立ち上がる。
独りで夜の甲板は恐怖心を得る。
手摺にしがみつき、空を見上げるのだが、真っ暗闇に波の音とエンジン音。
誤って海に落ちたら誰も気付かぬであろう。

普段は見られないほど美しい星空の下、吸い込まれそうな孤独感を味わう。



23時
私と同年代に見える男女3人が、私に話しかけたそうなそぶり。
見て見ぬ振りをして持参したカップラーメンをススル。
特に仲良くなる気もせず、他物件の設計主旨を記す作業を開始。

今回の渡航はほとんど揺れない。
こんな波であれば、25時間半乗船していても苦にならないのかもしれない。



24時
消灯。
仕方なく部屋に戻ると、イビキの大合唱。
私の上のベッドの人が寝返りをする度にきしむ音、ちょっと太りすぎではと独り言を言いながら、
自分の腹にも目をやり、軽くタタク。

それにしても暑い。
前回の渡航で上階ベッドは全て空室であったので、単純に2倍の人数がひしめき合っている。
空調は付いているのだが、容量が不足している感あり。
柔軟体操をしながら「ぎっくり腰リーチ」の体に鞭を打つ。

                                 第1日目終了 第2日目へ続く

戻る


写真・文章等の無断転載はご遠慮ください。